デュカス作曲 「魔法使いの弟子」


 デュカ(ス)は1865年にパリに生まれた作曲家です。パリ音楽院でエルンスト・ギローの作曲法のクラスでドビュッシーと出会い、和声手法など大きな影響をうけました。また、ピアニスト、コルト−が「ベートーヴェンの形式をフランス的書法で表現しようとした」と言うように、構築力に優れていました。みずからの音楽に厳しく、ほとんどの作品を発表しないまま破棄してしまったため、残っている作品はわずか10数曲のみです。その中でも1897年作曲者自身の指揮で初演された「魔法使いの弟子」は一気に彼の名を高めた名曲です。
 この曲は、ディズニー映画「ファンタジア」でも有名で『魔法使いの弟子が師匠の留守中にこっそり箒に水を汲ませる魔法を使ってみて、大成功したのも束の間、魔法を解く呪文を知らないことに気付き大洪水になり、師匠が帰ってきて呪文を唱えるとおさまる』という内容のゲーテの詩(全文は下記を参照して下さい)をもとに、交響的スケルツォとして書かれた曲です。情景が浮かんでくる親しみやすい曲です。



   魔法使いの弟子
               ゲーテ 詩
             山口四郎 訳

やれやれ魔法使いの老先生
やっとお出ましになったぞ!
さあ 先生の手下の霊ども
今から俺の言うとおり動くんだ
唱える呪文 結ぶ印
一部始終はとくと見ておいた
そこで念力を凝らし
俺だって奇跡を現じて見せよう

 溢れよ 溢れよ
 辺り一面
 目途定めて
 水よ流れよ
 たっぷり漲れ
 水浴びしょうほど

さて そこでお前だ 古箒!
その襤褸っ布を引っかぶれ
長いこと老先生の下僕だったが
こんどは俺の言いなりにするんだ!
二本脚でつっ立て
頭は上だ
それから急いで行くんだ
水瓶たずさえ!

 溢れよ 溢れよ
 辺り一面
 目途定めて
 水よ流れよ
 たっぷり漲れ
 水浴びしょうほど

ほれ見ろ 奴さん川辺へ
すっ飛んでった
いやはや! もう岸に着いた
そして電光石火でとってかえすと
さっそくざあっとぶちまけた
ほれ もう二度目にかかったぞ!
水槽は水でいっぱいだ!
あの水盤にもこの水盤にも
水がなみなみ溢れている!







やめてくれ! やめてくれ!
 お前の力は
 もう存分わかったから!
 えい しまった! 大変 大変
 俺はあの呪文を忘れていた!

ああ あの言葉 あいつが最後に
もとの姿にかえるあの呪文を
やれやれ あいつ駆けてってすぐまた
運んで来る!
なんとかもとの箒にかえらんもんかな!
あいつめ急いで
つぎつぎ新しく水を運んで来る
うわあ! 四方八方から
水がどっどと俺に襲いかかる

 いや もうこれ以上は
 ほってはおけん
 ひっ捕まえてやる
 悪ふざけもいいとこだ!
 ああ いよいよ心配になってきた!
 あの面つき あの目つきといったらどうだ!

やい この地獄の生まれ損ない!
家中水浸しにしようというのか?
なにしろもう閾という閾をこえ
水がどっどと流れこんでくる
この罰当たりの箒め
とことんいうことを聞かんつもりだな!
もとをただせばお前は棒っきれ
もとにかえって静かにしておれ!

 とどのつまり
 いささかもやめる気はないんだな?
 ならひっ捕え
 引っ掴まえ
 この古棒っきれめ 即刻にも
 鋭い手斧でぶったぎってやる











ほれ 奴めまた引きずってやって来た!
そいつを目がけてどすんと体当たり一発
見たかこの妖怪め 即座にぶっ倒れて
そこをばっさり磨き上げた手斧の一撃
げにげに みごと命中!
ほれ見ろ 真っ二つだ!
やれ これで安心
ほっと一息つけるというもの!

 大変だ 大変だ!
 ぶったぎった二つが
 すぐさま完全に独り立ち
 早くも二人の下僕になって
 すっくと立ちあがった!
 うわっ! 神様 なんとかお助け!

しかもこいつらのまあよく駆け回ることったら!
広間が また階段がつぎつぎ水浸しになる
なんともかんともすさまじいこの大洪水!
お師匠さま 大先生! わたしの叫びを
お聞きあれ!

やれ 大先生があそこに来られた!
お師匠さま まったくとほうにくれました!
われから呼び出しました霊どもに
ほとほと手を焼いておりまする

 「隅に退け
 箒よ 箒!
 汝ら本来 箒なり
 なぜならば汝らを霊として呼び出し
 その目的に供し得るのは
 ただ練達の師あるのみなれば」